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病気について

症状

片側顔面けいれんは最初は目のまわりの小さな肉のピクピクする状態より始まります。やがて頬もピクピクするようになり、ひどくなると下顎まで至ります。自分自身で止めることは出来ません。女性に多く、ストレスなどで増強します。自然に消失することはありません。顔面神経が脳幹よりの出る部位が、脳血管により圧迫されることで起こります。

写真1:MRI画像
<診断>

従来は症状のみに診断していましたが、最近はMRIの一種であるSPGRと言う検査で原因がはっきりと解ります。痛くない検査です。顔面神経が何処で、どの様に、何と言う血管で圧迫されているかが解ります。この検査は必ず行わなければなりません。(通常のMRIのみでは不充分です。)(写真1) 

<治療>

内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療法とはボツリヌス菌をピクピクしている眼輪筋に局所注射します。効果は3~4ヶ月持続しますが、再びピクピクし始めます。即ち根治療法ではありません。また時に皮下出血や、顔面神経麻痺を来すことがあります。日本では神経内科医で比較的良く行われていますが、世界的には盛んな治療法ではありません。

外科的治療法とは微小血管減圧術(MVD)と言われるものです。図1の様に皮膚切開し、骨に小さな穴(直径2~3㎝)をあけます。そこから顔面神経の根元に至り、そこを押している血管の位置をづらし、それが戻らない様に神経と血管の間に小綿(テフロン)を挿入する手術です。(図2) 時間は約2時間、入院期間は約10日間です。

世界的にはこの微小血管減圧術が治療の主流です。

<手術を行う時の大切なこと>

どの手術も同じですが、“誰にしてもらうか”、“術者は誰か”が大切です。やはり1,000例前後の御経験のある脳外科医を選ぶべきです。日本では3~4人います。

<私(神野)の手術成績>

私自身が行った手術総数は953例です。2003年以後の治療率は98%です。合併症は1例で顔面神経麻痺が術後に長期に続いたため形成外科的手術を行った例が1例、片側の聴力を失った症例が1例あります。再手術は18例ですが、そのうち第一回の手術は他病院で行われた症例が15例含まれます。再手術で全例、顔面けいれんは消失しています。

三叉神経痛とは多くは片側の顔面に生じる間歇的な激痛を示します。顔面神経痛と一般の方が言われる所以です。高齢者に多く、片側顔面の頬部、鼻、口唇、口内、下顎、そして額の部分に数秒から数十秒の激痛が走ります。90歳を超えたおばあちゃんが"自ら"手術してくれと外来にこられる程の激痛であると言う。多くは朝、歯磨きをしている時、食事をしている時、外出して冷たい風などに当った時に誘発されます。また、三叉神経が頬や下顎部なので顔面に出るところを押すと痛みが誘発されます。歯科的な病気かと勘違いして多くの患者が抜歯などの治療を受けています。当然のことながら無効です。

とにかく自ら経験したことがなければ、この激痛は理解できない程のものらしい。大きな口をあけて話もできず、食事も出来ず、ストローを使って液体物を流し込んでいるのが一般的です。

治療法

治療法は従来よりいろいろと考えられています。まず薬物治療ですが、通常の鎮痛剤では効かない。テグレトールと言う薬が特効的な改善をもたらすことがあります。多くは最初1日1錠或いは2錠にてコントロール可能です。但し、この薬は副作用が強い。まず体がフラつく、そして重い副作用としては皮膚疾患を伴うものまであります。しかも、最初は1~2錠で有効であったものが、やがてそれでは足りなくなり6~8錠と増えていく。私はまずこの薬物療法をお推めすることにはしているが、副作用と将来の増量による弊害だけは正確にお伝えしておくことにしています。

薬物療法の他に、神経ブロックがあります。三叉神経はその名の示す如く三つの枝に分れています。夫々の枝が顔面に顔を示すところに麻酔薬を局所注入(注射)するのです。

主として麻酔科医により施行されます。神経ブロックであるので、部位さえ正確であれば完全に除痛されます。但し、効果は一時的です。長くて約3~4ヶ月間の除痛期間は得られることがあります。さらに、知覚枝もブロックされるので、顔面の知覚がその間失われる。洗顔してもブロックされた枝の支配領域は所詮「感じがなくなっている」。と言うことです。この効果は一時的であること、知覚も失われるが、それでも良いと言う患者にはこの治療法をお推めしています。

手術療法

現在最も世界的に行われている治療法は微小血管減圧術です。これは図1の如く、耳介後方に直径約15mmの小孔を開け、三叉神経に到達し、それを圧迫している脳血管を離す手術法です。一度離した血管が戻らない様に三叉神経と血管の間にテフロン等の小片(綿のようなもの)を挟みます。(図2)

手術は実質的に約一時間で終了します。但し、全身麻酔下で行い、入院は約10日前後必要です。手術手技は、一見容易であるが、脳深部での操作であり、周囲に脳の重要部位が存在するためどの施設、どの脳外科医でも良いという訳にはいきません。病院選び、医者選びが大切です。日本国内での手術系件数も現在はインターネットで検索可能である。少なくとも数100例の経験のある脳外科医が術者であることが望ましい。

でも、もし私が手術をしてもらうなら、1,000例以上(一ケタ多い経験をしている脳外科医)を選びます。日本にはその様な脳外科医が3~5人います。(因みに私自身の経験例は1,000例です)

皮膚切開は通常の髪の毛で覆われるため外見上手術痕は見られません。痛みは手術後直ちに消失するのが普通です。手術成績は経験のある術者の報告を見ると、90%の有効率を越す。100%でないのは時に痛みの機序が全く異なる症例が含まれるからと言われています。

ただ昔は実際手術をしてみると圧迫血管は見当たらないと言うことがあり、手術成績を落としていたが、最近はその様なことはありません。その理由は手術前にMRIのSPGRと言う検査(患者に痛みは全くない検査)を行って、責任血管、即ち圧迫している血管の存在と部位が明瞭に解るからです。

合併症はゼロでありません。特に術者の経験の浅い場合は手術中に出血し、それが脳内にまわり込み死亡することもあります。死亡率はベテランでも平均1,000例に1例はあります。その他合併症として、小脳出血や一過性の顔面神経麻痺、聴力減退などです。決して頻度の高いものではないが、やはり医者選びが大切である。90%以上の患者からあの激痛が一瞬で消失する。しかも顔面のしびれなどはない。以上、統合的に言えば。身体他部に重要な病気でも持っていない限り、この微小血管減圧術が最善の治療法です。

私の痛みの消失率は94%です。死亡率は0.1%です。(この手術を始めた私の若い時に経験しました。最近は全くありません。)

近年、もう一つの治療法として放射線治療、特にγ-ナイフによる治療法が開発されています。多くは1~2日間の入院で、勿論手術もせず、とりあえずの合併症はありません。有効率は報告により異なるが最良の報告では70%の有効率があると言います。まだまだ多数例による長期予後の追跡が必要ですが、超高齢者や身体他部に合併症のある方にはまず試みる方法であると思っています。

では手術の実際の一部をお見せします。

くも膜下出血とは一般に脳血管にできた動脈の瘤(動脈瘤)が破裂して起こる頭蓋内(くも膜下腔)の出血です。多くは突然の激しい頭痛で発症し時には意識消失を来します。

くも膜下出血発症率は日本では約1人/5000人/年です。

脳動脈瘤は約5%(3-7%)の人に見つかるといわれており、15%が多発性動脈瘤です。

7mm前後の動脈瘤の破裂率は1%/年前後といわれています。

重症度は一般に意識状態やCT所見で判断します。重症度を表すスタンダードな分類であるHunt&Hess分類ではGradeⅠ-Ⅲでは年齢、全身合併症がない限り早期(発症72時間以内)に再出血予防処置を行います。

GradeⅣでは合併する頭蓋内病態(水頭症、血腫)を同時に治療することにより状態の改善が見込める場合手術が行われますが、GradeⅤは原則手術適応がありません。

手術時期は発症72時間以内の場合は早期手術が原則ですが、72時間を過ぎている場合は遅発性脳血管攣縮の時期(約2週間)が過ぎるのを待って再出血予防処置を行う場合もあります。

治療は①再破裂の予防が主目的です。その他に②くも膜下出血に対する治療があります。

再破裂は破裂後14日以内に多く見られ、再破裂すると予後は悪くなります。

再破裂を予防する手段には外科的治療(開頭術)と血管内治療があります。

外科的治療には専用のクリップを用いた脳動脈瘤頚部クリッピング術が行われますが、困難な場合はトラッピングや親血管近位部閉塞術も考慮します。いずれも困難な場合は動脈瘤壁を補強するコーティング術となる場合もありますが、これは万全とはいえません。

血管内治療は特殊なコイルをカテーテルを用いて動脈瘤内に留置し血栓化させる治療法です。カテーテルや塞栓物質の進歩により今後ますます適応症例が増えてくるものと考えます。

予後は病院に到着し診断されたくも膜下出血患者さんの約1/3が死亡、1/3が後遺症、1/3の方が社会復帰します。

予後を悪くする因子として出血量、年齢、GradeⅣ・Ⅴ、合併症の有無、動脈瘤のサイズや部位などがあります。

出血が多いと頭蓋内圧が亢進し、また直接脳を圧迫、破壊して予後を悪くします。また出血後に発生する遅発性脳血管攣縮(発症3-14日頃発生)により脳の血管に異常収縮がおこり、血流が障害されて脳梗塞を来します。この脳血管収縮は出血量と相関しており、出血の多い場合は合併する危険性が高くなります。

遅発性脳血管収縮に対しては手術の際脳槽ドレナージを留置して脳槽内血腫の早期除去を行ったり、薬物による保存的治療を行います。また発生した脳血管攣縮に対しては薬物の選択的動注療法を行うこともあります。

高齢者ほど予後は一般に悪くなります。

動脈瘤のサイズが大きいものや(15mm以上)、後頭蓋窩に位置する動脈瘤は手術難易度が増し予後が悪くなります。

※Hunt&Hess分類(1968)

Grade Ⅰ 無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直をみる。

Grade Ⅱ 中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない。

Grade Ⅲ 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状をしめすもの

Grade Ⅳ 昏迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある。

Grade Ⅴ 深部昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの

脳卒中とは「卒然として邪風に中る」という意味の言葉で、脳血管の閉塞や破綻(出血)によっておこる病気の総称です。

ひと口に脳卒中といっても複雑で、以下のように大まかに脳梗塞、脳出血そしてくも膜下出血に分けられます。

1.脳梗塞 いろいろな原因で血管が詰まるためにおこりますが、詰まる血管の大きさや詰まり方によって①アテローム血栓性脳梗塞(脳の大きな動脈の動脈硬化が原因となった循環障害)、②心原性塞栓症(心臓内にできた血栓が脳動脈に流れ込んで詰まる)、③ラクナ梗塞(脳の内部にある細い動脈の循環障害による)に分けられます。

2.脳出血 出血する部位によって細かく分けられており、それぞれ症状や重症度も異なります。

3.くも膜下出血 頭蓋骨と脳の間にある「くも膜」というクモの巣のような膜の内側に出血するものを指します。破れる原因の大部分は動脈にできた生まれつきの瘤(嚢状動脈瘤)で、そのまま放置すると出血を繰り返すため、きわめて死亡率の高い病気です。

突然、片麻痺や言語障害が現れて、数分から数十分のうちに完全に回復してしまったという訴えで、外来を受診する患者さんがいます。これは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれるもので、脳梗塞の警告症状と考えられますので、十分注意しなければなりません。脳のある部分の血液の流れが途絶えると、それに相応した症状が現れますが、血流がごく短時間のうちに回復すると、後遺症を残さず良くなることがあります。「一過性」とは24時間以内に完全にもとに戻った場合を指しますが、普通数分から数十分、長くても一時間以内に良くなるのが大部分です。そして、症状の持続が長いものほど、脳梗塞に陥る可能性が高いと考えられています。

脳梗塞とは脳を栄養している血液の流れが悪くなって、酸素とブドウ糖不足となり、脳の神経細胞や線維が死んでしまう状態を指します。血流が悪くなる原因はいろいろありますが、大きく分けると広い意味の動脈硬化によるものと心臓病によるものがあります。心房細動といった不整脈を有する方の心臓内に血栓ができ、それがはがれて脳動脈へと流れ込んで、脳血管を閉塞してしまうことがあります。これを心原性脳塞栓症と呼びます。一方、動脈硬化が原因となる脳梗塞はさらに、ラクナ梗塞とアテローム性梗塞に分けられます。これらの三つの臨床病型の中で、日本人に最も多いのはラクナ梗塞ですが、最近では心原性脳梗塞やアテローム性脳梗塞が増えてきています。

脳卒中にかからないために ?危険因子の治療?

脳卒中は突然起こるので、予知できない病気のように一般では思われています。しかし、脳卒中を起こしやすい状態やその原因となる病気は知られています。これらの状態、病気を脳卒中の危険因子(リスクファクター)と呼びます。

脳卒中を予防するためにはリスクファクターを治療、排除しておくことが大事です。治療できない重要な因子としては、加齢と脳卒中の家族歴とがあります。特にこのような人は次にのべる治療できる因子をうまくコントロールしておくことが必要です。

ここでは、脳卒中にかからない方法などについてのべましょう。よく知られた脳卒中のリスクファクターとしては、①高血圧、②糖尿病、③心臓病、心房細動などの不整脈があります。また、④脂質異常(高コレステロール血症など)、⑤多血症(高ヘマトクリット)、血液凝固の異常、さらに、⑥喫煙や飲酒といった生活習慣病、経口避妊薬などの薬物もリスクファクターとなります。

高血圧:高血圧は脳卒中の最も重要なリスクファクターといわれています。高血圧症の重症度に応じて、脳出血だけでなく脳梗塞も発症率が増加します。最近、わが国で脳出血が減少してきた理由のひとつは、高血圧の管理が良くなったことが考えられます。高血圧を管理、治療することにより、脳梗塞の発症率も低下することが明らかになっています。

糖尿病:糖尿病のある人からは、ない人の二倍以上多くの脳梗塞が発症します。脂質異常や肥満も合併しやすく、さらに高血圧を合併するとますます危険性を増すことになります。

心臓病、不整脈:これらは心臓内に血栓を作りやすいので、心原性脳塞栓症のリスクファクターとして重大です。血栓を作りやすいものに心臓弁膜症、心房細動、心筋梗塞、心筋症、感染性心内膜炎などがあります。心臓病を持っている人はほかの人に比べて、5?15倍の高頻度に脳梗塞を発症します。うっ血性心不全になったり逆に脱水状態に陥ると、心内血栓の成長を助長し発症の危険性を高めます。抗凝血薬(ワーファリン)は心臓内の血栓形成を阻止するので、心原性脳塞栓症の予防に有効です。この薬は、過量になると副作用として出血を生じることがあるため、専門病院での管理が必要です。

脂質異常:総コレステロールの高値、HDL?コレステロール(善玉)の低下は、アテローム血栓性脳梗塞と関係が深いと考えられています。逆に脳出血では低コレステロール、低栄養が関連すると考えられています。

多血症、血漿フィブリノーゲン上昇:これらから脳梗塞の発症が多いことが知られています。多量の飲酒、激しい運動、感冒、感染症、下痢などの後に脳卒中を発症することがあります。これは脱水によりヘマトクリットなどが上昇することが発症原因のひとつと考えられます。

飲酒(多量)、喫煙およびその他の生活習慣:これらも脳卒中発症のリスクを高めます。肥満も糖尿病、高脂血症、高血圧を助長し、動脈硬化を促進します。また、ある種の経口避妊薬によりくも膜下出血、脳梗塞などが引き起こされることもあります。特に喫煙者でそのリスクが高いとされています。

無症候性の脳卒中:最近は、超音波やCTMRIなどの非侵襲的検査により無症候性の頚部頚動脈の狭窄や脳梗塞、脳出血が見出されるようになってきました。これらも脳卒中を起こしやすい状態と考えられています。基礎疾患、合併症の検索とそれに応じた適切な予防対策が必要です。

以上に述べたリスクファクターの管理は、日常生活と深くかかわっています。

てんかん治療中の患者さんの自動車運転についての許可判断が近年、法律的に明確になりました。今回はその文献(てんかん研究:20巻2号)の一部抜粋をご紹介します。

「道路交通法改正にともなう運転適性の判定について」(日本てんかん学会法的問題検討委員会)

道路交通法で、従来「てんかん病者」は絶対的欠格事由となっていたのが相対的欠格事由となり、2002年6月1日より施行されますが、てんかんをもつ人の運転免許の取得、更新には、「継続的に診察している主治医」の診断書または「日本てんかん学会認定医(臨床専門医)または認定医(臨床専門医)に準ずる医師」による臨時適性検査を受ける必要があります。臨時適性検査は各都道府県の公安委員会が委嘱した医師が行うことになっており、臨時適性検査が必要とされた場合、運転免許の申請者は、公安委員会が指定した日時および委嘱医のいる病院で、検査を受けることになります。具体的には、

  • ア.発作が過去五年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合。
  • イ.発作が過去二年以内に起こったことがなく、医師が「今後、X年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合。
  • ウ.医師が、一年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合。
  • エ.医師が、二年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」

旨の診断を行った場合は、運転適性があることになり、免許取得が可能です。

臨時適性検査については、「公安委員会の担当者用対応マニュアル」では、2年間発作がないが、X年後(Xは1の整数倍)には再発の可能性を否定できないため、X年後に臨時適性検査が必要と診断された場合に行うことになっています。

脳動脈瘤の多くは動脈がこぶ状に膨らんだもの(嚢状脳動脈瘤)で、先天的に血管の分岐部の壁に弱いところがあり、これが30年、40年経過して膨らんでくるものです。

この動脈瘤が破れるとくも膜下出血になります。

しかし、脳動脈瘤に中には少数例ですが、嚢状脳動脈瘤とは別の種類の特殊な脳動脈瘤があります。これは解離性脳動脈瘤と呼ばれます。

日本人では頭の後ろ側にある脳の動脈(椎骨動脈)に発生することが多く、発生原因についてはゴルフ、アーチエリー等の頚に無理な回旋運動の加わる運動後に発生するものもありますが、多くは原因がはっきりしないと言われています。

血管の内側の壁に急に裂け目が生じて血管の壁の中に血液が入りだします。入り込んだ血液が更に血管の壁の裂け目を大きくしていき、ついには血管の最も外側の壁を突き破ると、非常に恐いくも膜下出血になります。

もうひとつは血管の壁に入り込んだ血液が最も外側の壁は破らないで、中側の壁の中に血液が多く入るために、本来の血液の流れる血管内腔を圧迫して塞いでしまい、そこから先の脳に血液が送られなくなり、脳梗塞(手足のしびれ、体が傾く、しゃべりにくい、飲み込みにくい等)を起こしてしまうことがあります。

最初に血管が裂ける時に、強烈な激しい痛みが、解離部、多くは後頭部から首筋に生じると言われています。その痛みが生じてから24時間以内?数日後にくも膜下出血あるいは脳梗塞を起こすと言われています。この解離痛は解離性脳動脈瘤の初発症状で、患者さんは急激に今まで経験したことのない激しい痛みが頚筋から肩付近に起こり、鎮痛薬を飲んでも良くならない場合がほとんどです。

この痛みが生じてすぐに来院され、診断がつけば、その後に起こる恐いくも膜下出血や脳梗塞を未然に防げる可能性があります。

また、実際に出血や梗塞が起きても、脳や全身の障害を最小限に食い止めることができる可能性があります。

気になる症状があればすぐに専門医に相談することが大切です。治療は出血時は細い管を脳の血管に送り、動脈瘤の中からコイルをつめてふさぐ血管内治療を行います。梗塞時はまず点滴による治療を行います。

特発性正常圧水頭症は、「治療可能なぼけの原因疾患」として新聞や雑誌を通して一般の人々に知られるようになってきた疾患です。簡単な手術で症状は劇的に改善しますが、残念なことに医師の間でもまだあまり正しく認識されているとはいえません。

この疾患が知られるようになってすでに四十年経ちます。正常圧水頭症は、脳神経外科医の間ではクモ膜下出血や髄膜炎などの後に歩行障害、失禁、痴呆(認知症)の3つを起こす病態として良く知られています。これらは原因がはっきりしている、いわば続発性 の正常圧水頭症です。最近話題になっているのは特発性正常圧水頭症で、何の原因も見いだせないのにこれら3つの症状を引き起こす水頭症です。この病気は七十歳以上の高齢者に見られることが多く、症状も歩行障害のみという場合があり、CTMRIをとっても、「脳萎縮」と診断されることが多いようです。

診断には腰椎穿刺(背中から針を刺す)で脳脊髄液を排除し、症状が改善するかを見るテスト(tap test)を行います。特発性正常圧水頭症であれば脳脊髄液を30-50ml排除すると翌日には歩行障害が改善します。様々な研究がされていますが、画像診断(CTMRIなど)で正しく診断できるものは今のところないようです。

1回の髄液排除でかなり長期にわたって症状の改善を見ることもありますが、すぐに元に戻ってしまう場合もあります。この場合には手術が必要となります。手術は、脳脊髄液を持続的に排除するために様々な方法が工夫されています。代表的なものとしては脳室腹腔短絡術、腰椎腹腔短絡術、脳室心房短絡術があります。現在広く行われているのは脳室腹腔短絡術です。

特発性正常圧水頭症は六万人から八万人の患者がいると言われています。この疾患が高齢者に多いということを考えると、今後患者数は非常に多くなることが予測されます。CT,MRIでは正常あるいは脳萎縮と診断されてしまうことが多く、ほとんど見逃されているのが現状です。年を取って転びやすくなったら専門医にご相談ください。

脳神経外科領域において、脊椎・脊髄疾患の患者様も年々増加しているように思われます。わが国における平成15年度の推計患者数では、脊柱障害は高血圧性疾患に次いで2番目に多く、約50万人とされる報告もあります。高齢者に多く見られる症状に腰痛があります。65歳以上では、約5人に1人の割合で認められ非常に頻度の高い症状と言えるでしょう。若い人の腰痛の原因としては腰椎椎間板ヘルニアなどが代表とされますが、高齢者になりますと加齢に起因する脊椎の退行性変化が生じ変形性腰椎症いわゆる腰部脊柱管狭窄症が多く見られるようになります。最近では、お茶の間の人気タレントが、この病気になり正月早々手術をしてその後元気に復帰して注目されている病気です。今回は、腰部脊柱管狭窄症の症状と治療法の話をします。

脊椎では、神経は脊柱管という骨で構成された管を通って末梢へ分布していきます。加齢と共に、椎間板が変性・膨隆したり、椎間関節が変形したり、脊柱管の内側にある黄色靭帯が肥厚したりして神経を圧迫して起こるものが腰部脊柱管狭窄症です。腰痛以外に出現する症状が、下肢の疼痛、しびれ感、脱力感などです。特に、間欠性跛行という特徴的な症状が現れます。この症状は、歩きだすとしばらくして足や腰がしびれたり、痛くなったり、だるくなったりして途中で一服しないと歩けなくなり、また前かがみになり休憩すると症状が改善してまた歩けるようになる状態を言います。前かがみになると脊柱管内部の靭帯が伸びて神経の圧迫が軽減され、逆に腰をそらすと靭帯などがゆるんで神経を圧迫し症状が強くなるメカニズムから起きると考えられます。ですからお年寄りが腰をかがめて歩くには理由があるわけです。前かがみで症状が軽減されますので歩くのは大変ですが、自転車では(前かがみで乗ることが多いので)比較的長い距離移動することができるとおっしゃる方も時々見られます。

診断は、まず腰痛のレントゲン検査で腰椎の変性度合を確認し、MRIでは神経の圧迫度合を椎間板や靭帯の状態と共に確認します。また前屈・後屈状態での神経の圧迫度合を確認する意味で造影剤を神経の入っている硬膜の内側に注入して撮影する脊髄造影検査や造影後CT検査による断層撮影を施行し腰椎の骨の状態や関節の状態を詳しく調べます。

治療としては、まず姿勢により症状が変化しますので、長時間の歩行や背筋を伸ばした立った姿勢は避けることが肝心です。日常生活において立って仕事やお勝手をするときは片足を低い足台に載せるとか、腰掛けるとき腕は肘掛に置いて、ひざと股関節を十分曲げる意味で、軽く足を組むのがよいとも言われています。寝るときは体を丸くするのも良いでしょう。また最近では圧迫された神経の血流障害を改善させ下肢のしびれを改善するべく内服薬も使用できるようになりました。このような保存的治療でも症状が改善せず神経症状が悪化するような状況であれば、圧迫を解除する椎弓切除術や椎間板摘出術など手術をすることとなります。

腰部脊柱管狭窄症とは、私たちが長年重いものを持ったり、仕事や家事でがんばってきた勲章のようなものかもしれません。しかしながら腰痛や足の痛み、しびれという勲章はありがたいものではありません。上手に付き合うことも大切ですが、早めに相談し適切な診断のもと治療が開始できると良いでしょう。

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