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ドクターJの褥瘡講座

このドクターJの褥創(ジョクソウ)(床ずれ)講座は、看護・介護に従事しておられる方に、褥創(床ずれ)とは何かを解りやすく知って頂くために、また褥創(床ずれ)を予防するにはどのようにしたら良いかを知って頂くとともに、さまざまな褥創(床ずれ)に対する知見を紹介して行きます。

第1編

褥創(床ずれ)の発生原因と圧力について、物理学的な観点からアプローチしていきます。

1.褥創(床ずれ)の発生原因

褥創(床ずれ)は、英語では pressure sore と呼ばれ、その本態は体重によって生じる圧力(体圧)が、殿部などに集中し、その部位の皮膚や皮下組織に生じた虚血性壊死です。褥創というよりも床ずれと呼んだ方が一般的です。  私たちは同じ体位で長時間寝ていたり、同じ座位で座っていると、痛みや不快感から無意識に身体をずらすなどして対応しています。我々は知らず知らずのうちに寝返り(15分間に1回)をうつなどして対応しています。脊髄損傷・脳卒中・さまざまな原因による意識障害などにより、寝返りをうつことが出来なくなると、褥創(床ずれ)が生じてしまいます。 それでは褥創(床ずれ)の好発部位と、人体の骨格を比較してみます。
頭部・肘・背部・殿部・踵部などが好発部位です。これらの部位は、骨格から考えるといずれも突出部であり、体重が集中してしまう部位です。この突出している部位を研究するために、スリット光を用いて、体表の等高線を描くなどの研究も行われています。中でも殿部は、褥創(床ずれ)の80%が発生します。一番の好発部位は仙骨部で、この部位には全褥創の50%が発生しその他、仙腸関節部、坐骨結節部、大転子部などに発生します。臥位では仙骨部に、座位では坐骨結節部に、側臥位では大転子部に褥創(床ずれ)が生じます。
それでは、それぞれの体位における骨格の突出部位を、人骨モデルによって観察していきましょう。
人体の骨格動画
人体骨格・CT多系統表示動画
臥位では、脊柱は肩甲部と殿部で凸、腹部で凹の彎曲をしているのが解ります。
殿部の骨格を詳しく見ていくと、仙骨(仙中隆起)部、仙腸関節部が突出しているのが解ります。
側臥位では、大転子部や肘が突出しているのが解ります。
座位では、両側の坐骨結節部が突出しているのが解ります。
座位における骨格動画
また腹臥位では、膝関節部胸部、顔面が突出しているのが解ります。
組織軸位断動画

2.圧力について

圧力の単位は、g/c㎡、gK/㎡などと表示されます。これらはそれぞれ1c㎡や1㎡にどれだけの重さが、かかっているのかを示しています。ところが血圧の単位では、mmHgなるものが使われており、分かりにくくなっています。Hgとは水銀のことで、水を1とした時、水銀は13.6の重さがあります。これを比重と言います。学生時代の物理を思い出してみて下さい。たとえば血圧100mmHgは、13.6×100=1360mmH2Oということです。つまり100mmHgの血圧は、水銀なら10cm,水なら136cmの圧力で、つり合う事ができます。ちなみに毛細循環の血圧は、32mmHg(32~35mmHg)と言われています。つまり32×13.6=435.2mmH2Oとなります。

3.血流と圧力について

さて褥創(床ずれ)発生原因の第1は、身体の突出部に体重による体圧がかかり、その部位の血行を障害することです。通常臥位の仙骨部では、60mmHgを超える体圧がかかるため、我々は臨床現場では2時間ごとの体位変換を行っています。これは米国のロジャーによって提唱された、圧力と時間の関係から60mmHgの圧力では、3時間で圧迫虚血により、皮膚組織が不可逆的ダメージを受けてしまうため、安全限界を2時間として体位変換を行っているもので、現在は体圧だけでなく、張力・剪断力と時間の関係が、褥創(床ずれ)発生の原因であることが分かっています。
血圧は心臓からの距離が遠くなるにつれて、下降していき表皮を栄養している毛細循環に入るとき(毛細血管動脈圧)は約35(32~35)mmHg、出るとき(毛細血管静脈圧)は16mmHgになります。当然、毛細血管動脈圧より高い圧力が、皮膚に加わっていれば毛細循環は途絶し、虚血性壊死をおこすことになります。ただしこれ以下の圧力であっても毛細血管静脈圧を超える圧力であれば、静脈灌流障害により毛細循環は障害される場合もあります。
腹部大動脈の血流は左右の総腸骨動脈から内・外腸骨動脈に分かれていきます。殿部の筋群には、内腸骨動脈が血流を送っています。
血管系動画
臀部血管系動画
私たちの毛細循環が豊富な部位で観察してみましょう。爪を押さえて見てください。ピンク色の爪が白くなったら、毛細循環が止められているということです。わずかな圧力でも長時間続けば不可逆的変化を生じます。
剪断力(ずれ力)Shearing Forceの観点は、臨床看護上、重要でギャッジベッドで頭部を挙上した場合に図のように、ベッド面と身体の間で生じる力で、短時間でも組織に不可逆的なダメージを与えてしまいます。

4.殿部組織の構造と体圧、張力、剪断力についての物理学的アプローチ

仙骨部にかかる圧力と仙骨部から数センチ離れた部位での圧力を調べてみると、寝たきりで痩せており、仙骨部周囲の筋肉が萎縮していると、二つの部位にかかる体圧の差が著しくなります。このような場合に二点間の圧力勾配は、急と言います。二点間の圧力の違いは、そこに張力を発生させます。(二点間の張力の違いにより、生じる力を剪断力と言います。)殿部の筋肉(大・中・小殿筋など)は、体圧が仙骨部に集中するのを防ぐスポンジの役割をしています。寝たきりになると、CT画像のように骨突出部位周囲の筋肉が萎縮します。このためにさらに仙骨部に体圧が集中し、褥創がおこりやすくなります。殿部の筋肉が萎縮していない健常者では、筋肉がスポンジの役割をはたすため圧力勾配は、緩やかで褥創がおこりにくいといえます。
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