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褥瘡に対する経皮的電気刺激療法及び酸素療法の検討

小嶋 純二郎(*1) 正木 健一(*2)
Key words:Pressure sores(褥瘡), electrical stimulation(電気刺激), Oxygen Therapy(酸素療法)
(*1) 小嶋病院 脳神経外科
(*2) 老人保健施設 東 海

【諸言】

褥瘡の発生要因は、外的要因(圧力・張力・剪断力)と内的要因(貧血・低蛋白血症・発熱等)に大別されるが、その本態は圧迫による組織の虚血性壊死である。現在、褥瘡に対して種々の治療法が試みられているが、圧力負荷の解放が第一であり、これらの要因に対する治療が重要である。著者は(①)健常人の臀筋群に対して経皮的電気刺激を施行し、仙骨部体圧の分散が可能であることを報告しているが、電気刺激の皮膚血流に対する直接効果については再検討課題であった。今回、空気吸入下および純酸素吸入下で、圧力負荷解放時の電気刺激の有無による、経皮酸素分圧および二酸化炭素分圧の推移を測定、電気刺激の皮膚血流に対する直接効果について検討するとともに、褥瘡に対する酸素療法ならびに電気刺激療法の有用性について検討し、組織レベルの低酸素血症について若干の考察を加えて報告する。

【対象および対象】

経皮酸素分圧および二酸化炭素分圧(以下tcPO2,tcPCO2と略す)計は日本光電製OKV-7301複合型センサーを用いた。経皮的電気刺激装置はSAKAI製LSI-210を用いて、左右各々の大臀筋および中臀筋のmotor pointに導子を貼置し25mA-30mA、2Hzの電気刺激を行った。また純酸素投与は15L/min の流量にてリブリージングマスクを使用した。センサーを仙骨部皮膚に装着し、図1に示す如く、仙骨部をくり抜いた木板上に仰臥位をとり、血圧用マンシェットを用いて木板の下から60mmHg、10分間の圧力負荷を与えた後、マンシェットの空気を抜き、5分間圧力負荷を開放した。この操作を空気吸入下で施行したA群と純酸素吸入下で施行したB群、空気吸入下で60mmHg10分間の圧力負荷を加えた後、圧力負荷を開放した5分間に電気刺激を施行したC群さらに純酸素吸入下で施行したD群について測定した。
対象は健常男子10名である。
図1 実験方法模式図

【結果】

圧力負荷前の仙骨部皮膚は空気吸入下ではtcPO2 69.5 ± 7.2 torr,tcPCO2 41.0 ± 2.1 torr純酸素吸入下ではtcPO2 324.5 ±96.0 torr,tcPCO2 39.2 ±2.6 turrであった。空気吸入下A群、純酸素吸入下B群図2に示す。空気吸入下のA群のtcPO2 は圧力負荷直後より低下し始め約2分間でゼロに達した。tcPCO2はこの時点より6.4 torr/minで時間に比例して上昇した。純酸素吸入していたB群ではtcPO2 は約5分間でゼロに達したが、圧力負荷直後のtcPO2 の低下は、純酸素吸入下の方が酸素分圧低下速度が速く空気吸入下に比して急勾配を示した。tcPCO2 の上昇は純酸素吸入下では90秒程送れて3.5分経過時点より上昇し始め、この時点より空気吸入下と同様に6.4torr/minで時間に比例して上昇した。また圧力負荷解放後の各条件A・B・C・D群のtcPO2,tcPCO2の推移を図3に示す空気吸入下の(A・C群)と純酸素吸入下(B・D群)との間で相違を認めるのみで、低周波電気刺激の有無による変化は認められなかった。
図2 A.B群の圧力負荷と解放後のtcPO2,tcPCO2の推移
図3 圧力負荷解放後のA・B・C・D群の推移

【考察】

電気刺激による筋活動時、筋血流量は増加し、熱産生も増加、皮膚温も上昇することがサーモグラフィーで確認されている。 電気刺激による直接効果として皮膚温度の上昇を介する血流増加作用の他、筋活動が皮膚の毛細循環に能動的に働いた可能性が考えられるが、通常の表皮には血管がなく、酸素分圧はゼロに近いが、今回使用したセンサーは表皮を41~43℃に加温することで真皮毛細血管が拡張し、皮膚組織を局所的に動脈血で満たした状態にすることで測定(②)している。図3に示すように、解放後の推移ではA・C群とB・D群の相違を認めるのみで、電気刺激の有無による変化は認められなかった。このことは電気刺激の直接皮膚血流増加作用を否定する結果であった。 しかしながら、今回のセンサーでは、すでに皮膚毛細血管床は加温増加されており、測定原理上不適当で、実験方法の再検討を要すると思われた。またtcPO2,tcPCO2ともそれぞれの分子の拡散能力差にもかかわらず、同様に推移して回復した。これは未だ組織が可逆的であり、かつ充分な血流量の再開が得られたためと考えられる。
図4 組織拡散モデル(Opitzによる、高酸素分圧血)
ここで組織レベルの低酸素血症(hypoxemia)について考えると、hypoxemiaは、hypoxemic,anemic,stagnant,histotoxic,demand等にその病態から分類される。図4に、Opitz(③)による組織拡散モデルと高酸素分圧血の組織拡散モデルを示した。拡散モデル上、最も酸素分圧の低いところは、毛細血管静脈端で、2つの血管の中点と考えられる。肺炎併発(hypoxemic)、貧血(anemic)、発熱(demand)のみならず、低蛋白血症による浮腫の発現は、モデル上の円筒の半径距離が増加するため、hypoxemiaを助長し、褥瘡の内的要因となりうる。酸素投与はこれら内的要因に対して改善させるだけでなく、主要因である圧力負荷による毛細血管血流速度の低下により生じるstagnant hypoxemiaに対しても有効であると考えられる。なぜならば、図2に示した圧力負荷直後のtcPO2 の推移は、純酸素吸入下の方が空気吸入下に比して酸素分圧低下速度が速い。これは組織に対する酸素供給が物理学的拡散により行なわれ、O2の移動が酸素分圧較差により規定されるためであり、組織の酸素要求に対し高酸素分圧血による迅速な酸素供給が有用と思われる。tcPCO2の推移はB群がA群より90秒程遅れて、同様に6.4torr/minの割合で時間に比例して上昇した。組織から血中へのCO2の運搬も、拡散により移動する。静脈血中のCO2は、通常5%は遊離CO2として単純溶解、10%はHbまたは血漿蛋白とカルバミノ結合し、他の85%は重炭酸塩として存在しており、CO2 + H2O = H2CO3 となる。これがH+とHCO3-で示される反応で緩衝系としての役割を果たし、これらはCO2 解離曲線で示されるように、酸素化血に比して脱酸素化血の方がCO2 の運搬に有利で、stagnant hypoxemia等の動静脈血酸素含有量較差が増大する病態においては、静脈側ではdeoxygenationが増加するとCO2 をより運び出しやすくなる。循環不全のない通常の組織においては、純酸素投与はdeoxygenationが減少するためにCO2 運搬能は低下し、組織内にCO2 が蓄積しtcPCO2は上昇すると考えられている。4)しかし、今回の圧力負荷後のtcPCO2 の上昇が、B群においてさらに90秒遅れたことは、stagnant hypoxemia において酸素化血はいずれ脱酸素化血となり、この脱酸素化血が組織内のCO2を緩衝し得ず、CO2の蓄積を生じる訳で、今回の実験結果からは、oxygenationによる血中CO2含量の減少は組織内のCO2の蓄積に対して有利と考えられる。

【結語】

電気刺激療法は体圧分散を企てる方法として期待できるが、直接皮膚血流増加作用については、加温による血流増加以上の効果は認められなかった。酸素療法は、組織レベルでのhypoxemiaの観点からも有用と思われた。

【文献】

(1)小嶋純二郎:経皮的電気刺激による仙骨部褥瘡防止効果についての研究。日本パラプレジア医学会誌:140-141,1996.
(2)柚木祐司,他:呼吸機能の連続モニター。臨床モニター4:295-303,1990.
(3)小暮久也:Anoxiaによる脳障害とその発生機序神精薬理 4:277-377,1982.
(4)Ketty,S.S et al:The effect of alteredarterial tention of carbon dioxide and oxygenconsumption of normal young men.J.Clin.Invest,27:484-492,1948.
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